SURGICAL DISEASE外科疾患

多くの体表・内臓などの各種軟部外科、骨折・膝蓋骨脱臼・椎間板ヘルニアなどの整形外科の手術実績があります。
さまざまな疾患に対して、年齢や状態・ご家族の意向などを踏まえながら、なるべくその子のためになるように手術を選択していくかどうかからご相談させていただき、外科が必要な場合は、充分な鎮痛と麻酔管理を行い安全に手術できるように細心の注意を払っています。
また疾患やご家族の希望によっては二次診療機関への紹介も積極的に行っておりますのでお気軽におっしゃって下さい。
以下によくある外科疾患の例を挙げてご説明します。

① 体表の腫瘍~肥満細胞腫

犬と猫の皮膚のできもののうちとても頻繁に見られる腫瘍ですが、イボや脂肪種などとの見た目での判断が難しいです。細い針をさして細胞診を行う(FNAやFNBという)ことで簡単に診断できるので、体表のしこりはまず検査をおすすめします。
特に犬は悪性のことも多いため、局所麻酔なども含めた積極的な鎮痛管理をしながら、見た目より余裕をもったり底部の筋膜切除を行い大きめに(充分なマージンをとって)切除したり、必要に応じて近傍のリンパ節も切除して、なるべく一度で根治的な手術になるように心がけています。切除した腫瘍は病理検査で、悪性度の評価(犬だとグレード1,2,3に分類され、その後の治療や予後が異なる場合がある)と取りきれているかマージンの評価を行います。また、PCR検査でc-kit遺伝子変異があり過剰な増殖状態がある場合にはイマチニブやトセラニブ(パラディア)などの分子標的薬という抗癌剤を使う場合もあります。

② 体表の腫瘍~乳腺腫瘍

犬猫は多産なので脇のあたりから下腹部まで左右に広く乳腺があり、乳腺腫瘍は若齢時に避妊されていない雌で多くみられます。
未避妊の犬では良性病変の場合も多いですが、多発する傾向があるため病変の分布などを勘案したうえで乳腺の部分切除か全切除かを決定します。またホルモン依存性の再発を防ぐ意味で、いっしょに卵巣子宮の摘出術をすすめます。
犬でも3cm以上の大きいものや、特に猫の乳腺のできものの約9割は乳癌で悪性の挙動をとることから、基本的には乳腺全切除をすすめることが多く、病理検査結果によって術後の抗癌剤治療を行うこともあります。

③ 臍ヘルニア・鼠経ヘルニア・会陰ヘルニア

ヘルニアとは臓器が本来あるべき部位から脱出した状態を表すもので、比較的よくみられるものに臍部ヘルニア(いわゆる出べそ)や鼠経ヘルニア(下腹部の内腿付け根部分がぽっこりします)があり、若齢でみられることが多いため去勢・避妊などの手術時にいっしょに整復してしまうことも多いです。
また、会陰ヘルニアは中年齢以後の未去勢犬で(コーギー・ダックス・マルチーズなどで特に)多くみられ、肛門周囲と臀部の萎縮した筋肉の間にヘルニアが起こることで、会陰部(肛門の脇)の皮下に直腸や膀胱などの骨盤・腹腔内臓器が出てぽっこり腫れたり、尿や便が出にくいなどの症状がみられます。症状が軽い場合には経過をみることもありますが、基本的にはいざ排泄ができなくなり具合が悪くなる前に外科的に対応することをおすすめしています。
さまざまな手術がありますが、当院では、外肛門括約筋と、肛門挙筋・尾骨筋およびその頭側の仙結節靱帯と骨盤から挙上した内閉鎖筋をナイロン糸で結紮し、さらにこれで足りない場合には総鞘膜などの生体材料を用いた方法を行い、必要に応じて膀胱や直腸などの臓器のヘルニアが再発しないように腹壁への固定を併せて行っています。

④ 子宮蓄膿症

未避妊の中高齢の犬で多く見られる疾患で、長い発情休止期にプロジェステロンというホルモンの影響で子宮内膜過形成と大腸菌などの細菌感染を起こします。典型的には発情後1-4カ月ほどで、陰部からのおりものや発熱、元気食欲の低下や嘔吐・下痢、飲水・尿量が増えるなどの異常がみられ。腹膜炎や敗血症、多臓器不全などの全身の重篤な状況を起こすことがあり、避妊していない女の子では注意が必要です。
基本的には卵巣子宮摘出で完治がのぞめるので、点滴や抗生剤などの投与で状態を整え、早急に手術を行います。高齢や持病などから麻酔リスクが高い場合には、アグレプリストン(アリジン)というプロジェステロン遮断薬で内科療法を行うこともあります。

⑤ 尿路結石

体質や食事、飲水が少なく尿が濃いことなどにより、結石が尿路にできることがあります。
膀胱や尿道の結石では、血尿、頻尿、しぶりなどがみられ、ストラバイトという結石の成分であれば療法食で溶解や維持管理が可能なことも多いですが、特に雄猫では尿道閉塞がよくみられ、2-3日続くと元気食欲の消失や嘔吐などがみられて急性腎不全となることもあり、早急にカテーテルなどで閉塞を解除する必要があります。
また、上部尿路では、特別な症状がみられないことも多い一方で、シュウ酸カルシウムという不溶性の結石であることがほとんどで、尿管が結石などでつまると閉塞した側の腎機能が大きく損なわれるため、尿管の閉塞部分を切開したり、切除して膀胱に吻合したりします。

尿路結石

この症例では尿管膀胱新吻合術という手術で尿管を膀胱に移植しなおしました。



SUBというインプラントで腎臓と膀胱を体内でつないだりする手術を行う場合もありますが、この場合は定期的にインプラントのメンテナンスを行う必要があります。

尿路結石

尿路結石

⑥ 胆嚢疾患

胆嚢は肝臓でつくられた胆汁という消化液を一時貯蔵する部位で、総胆管という管を通じて腸に胆汁を分泌しています。

胆嚢疾患

胆嚢の異常としては胆泥症という必ずしも病的とは限らない状態が多くみられる一方で、胆嚢炎や胆石症、胆嚢粘液嚢腫(犬特有の病態でムチンという粘液の過剰産生で胆嚢内を充満してしまう)といったさまざまな疾患もあり、重度の細菌感染や総胆管閉塞による黄疸や胆嚢破裂による腹膜炎などの重篤な状態を引き起こすこともあります。
総胆管の閉塞や胆嚢の破裂がある場合などには特に要注意ですが、最近では出血リスクなどを抑えて比較的安全に手術が行えるようになっており、進行の具合や年齢を勘案しながらあまり重症化する前の手術をおすすめしています。

⑦ 骨折

トイプードルなどの小型犬では、特に2歳くらいまでの若齢時にソファや階段からの飛び降りなどの日常生活の些細なきっかけで骨折してしまうことがあります。症状としては前足をあげて痛がったり、足が変な方向に曲がっているのに気づかれる場合があるようです。骨折部の変位が小さい場合には添え木(外副子固定)で安静にしてもらい治癒を期待することもありますが、細い骨がずれると癒合不全になることもあるため、外科的な整復が必要な場合も多いです。

犬の骨折

小型犬の前肢(橈尺骨)の骨折が多くみられ、LCP(ロッキングコンプレッションプレート)などといわれるような金属プレートとスクリュウで骨折部を整復することが多いです。

骨折

⑧ 膝蓋骨脱臼(パテラ)

膝蓋骨(膝のお皿)が本来あるべき大腿骨の滑車溝からずれてしまう状態で、トイプードル、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャーテリアなどの小型犬や柴犬などで内側への脱臼がみられることが多く、先天性・発育期の骨や筋肉の向きなどの影響や、ソファからの飛び降りや激しい動きにともなった外傷などで起こることがあります。
脱臼の程度により4段階に分けられますが、その程度に関わらず症状がない場合もあり、痛がったり、歩行に問題がない場合には、体重管理やサプリメント、段差の上り下りやフローリングでの激しい動きなどに気を付けてもらうことでハンデをもった膝に負担がかかりにくして内科的に経過観察とすることも多いです。

膝蓋骨脱臼(パテラ)

グレード1:ほとんど脱臼していない
グレード2:頻繁に脱臼するが容易に戻せる
グレード3:常時脱臼しているが正常な位置に戻せる
グレード4:常時脱臼して正常な位置に戻せない

一方で、1歳齢未満の若いうちの発症で今後の悪化が予想される場合や症状がある場合には積極的な手術をおすすめしており、関節の軟部組織の手術(内側支帯解放・外側支帯強化、縫工筋前部と内側広筋の切開)と、骨の手術(滑車造溝と脛骨粗面転移術)を必要に応じて組み合わせて行います。

⑨ 椎間板ヘルニア

椎体の間でクッションの役割をしている椎間板軟骨が変性して脊柱管内に飛び出して脊髄の神経を圧迫することで、首をすくめたり腰をかがめたり、キャンと鳴いて痛がる様子をみせたり、麻痺を起こして立てなくなったり、後肢を引きずる、などの症状がみられます。
特に、ミニチュアダックスフンド、トイプードル、フレンチブルドッグなどの犬種では2歳齢くらいから比較的若齢でも起こることがあり、症状によっては麻酔下でのMRIによる部位・病変の特定を行ったり、手術で圧迫物質を行う必要があります。

椎間板ヘルニア

胸腰部椎間板ヘルニアの重症度分類
グレード1:腰背部の痛みだけ
グレード2:ふらつきながらも歩行できる。
グレード3:歩行困難で後肢の不全麻痺がみられる。
グレード4:後肢の麻痺があるが、深部痛覚がある。
グレード5:後肢の麻痺があり、深部痛覚も消失している。

特に重症例は重度の圧迫があることが多く、術後の回復のためなるべく早期の手術が望ましいです。一方で、一部の症例では脊髄軟化症といわれる進行性の致命的な脊髄の壊死がみられるため、MRI検査でこれを見極めることも非常に重要です。


胸腰部椎間板ヘルニアの手術(片側椎弓切除術)

胸腰部椎間板ヘルニアの手術(片側椎弓切除術)